【土曜アカデミー】茨城ロボッツ?川﨑篤之社長×AI研究?鈴木智也教授がガチンコ対談
―チーム強化、観戦以外の楽しみ、まちへの愛着...語られたビジョンと技術
誰でも無料で楽しく学べる茨城大学「土曜アカデミー」。11月16日(土)は特別企画。バスケットボールBリーグの茨城ロボッツを運営する株式会社茨城ロボッツ?スポーツエンタテインメントの川﨑篤之社長をゲストに迎え、工学部&地域未来共創学環で教鞭をとる機械学習の専門家の鈴木智也教授との「ガチンコ対談」をお届けしました。選手?チームの強化に留まらず、アリーナでの「観戦」以外の楽しみ方や新しいマーケティング、さらにはスポーツを通じて地域への愛着を高めるためのAIを活用方法まで......縦横無尽なトークから茨城ロボッツと水戸のまちの未来に期待が湧く90分でした!
最も高性能なAI!?
茨城ロボッツは、前身のチームからリニューアルして早10年になります。今年の戦績はやや苦しんでいますが、地域に向けた熱いアプローチの成果もあって、報道露出やチケットの売り上げ、WEBサイトの来訪者数などが大きく伸びてきているそうです。
そんな、チームの現況に触れた上で、エネルギッシュな川﨑社長が最初に「豪語」したのは、「茨城ロボッツは最も高性能なAIを使っています。世界中どこも真似ができないと思います」という宣言。会場のみなさんが目を丸くして驚いていると、スクリーンに登場したのは、マスコットキャラクターの「ロボスケ(ROBO-SKET)」。Xでも「AI搭載シテル」が口癖だそう。なるほど...!?
さて、それはともかく、川﨑社長は、プロスポーツにおけるAIやデータサイエンスの活用のポイントを5つの視点で紹介しました。
ひとつが新たな顧客体験、顧客満足度の向上。CX=カスタマーエクスペリエンスなどと呼ばれて注目される分野です。ふたつめがマーケティング?セールスの領域のDX(デジタルトランスフォーメーション)。これには、価格変動制を導入したチケット販売の他、今後、スポンサー獲得にもデータを積極的に活用していきたいとのこと。3つめが、アリーナでの「観戦」に留まらないコンテンツをどう提供していけるかという視点で、投げ銭やサブスクなどの動画ビジネスの他、VRやAR、メタバースの活用、さらにはeスポーツとの連動などが考えられるということです。そして4つめが、チーム?選手のパフォーマンス向上やケガの防止で、現在は「KINEXON」というサービスを活用しているという紹介もありました。
最後が、社会的価値の設計?見える化。川崎社長は、茨城ロボッツが目指していくものとして、地域に対する「愛着の種まき」が大事であると何度も強調していました。その意味でも、「茨城ロボッツの存在が地域にどんな経済的、社会的価値をもたらしているか、個人の『ウェルビーイング』にどうつながるかということを可視化してみたい」とのこと。
AI対AIの対決になってしまっては...
続く鈴木教授からのプレゼンでは、まずは今年4月にスタートした「地域未来共創学環」について紹介。データサイエンスとビジネス、ソーシャル?アントレプレナーシップを学び、有給の就業体験である「コーオプ実習」が必修になっているという同学環の特徴を説明しました。
茨城ロボッツは現時点では「コーオプ実習」の実習先にはなっていませんが、将来的にはデータサイエンスを学んだ学生たちが長期間実習に取り組み、前述のような課題に取り組むことが期待されます。
大量のデータを計測し、機械学習による処理をもとに課題を評価し、ときには提案まで行うのがAIです。鈴木教授によれば、それによってもたらされるのは、「可視化」「予測」「最適化」「省人化」といった価値。それをスポーツに当てはめるのなら、たとえばゲーム中の選手の姿勢や細かな動きまで捉え、次の展開を機械学習で予測し、リアルタイムに戦術を得るということも可能になります。あるいは「AIによる審判や好プレー実況もできる」と語ります。
こうした鈴木教授の指摘には川﨑社長もうなずく一方、鈴木教授にこんな質問。「AIがどんどん学習して戦術まで作るとなったときに、それはAI対AIの対決になって、何が勝敗を分けることになるのでしょう?」。
確かに私たちがスポーツを楽しむというとき、それは選手たちのフィジカルな側面の魅力に触れているのですから、評価と分析、それに準拠して動くゲームというのは、確かに違和感もあるかもしれません。しかもAI技術に多くの投資ができるような資金力豊富なチームばかりが強くなってしまいそうです。
その点で、「BリーグとしてAIの規制などは検討されていないのか」と質問すると、川﨑社長は、「将来的には必要になってくるのではないか」という見解を示しつつ、一方で、音楽の分野でも生身の歌手だけではなく「ボーカロイド」を楽しむ人がたくさんいるように、AIが介入するゲームも、ファンの楽しみ方の選択肢を増やすものといえるかもしれません。
スポーツが生む幸福感とDNA経済圏
その意味でも、「試合を見ている人たちの幸福度をもっと可視化してみたい」と語るのが、鈴木教授です。鈴木教授自身はサッカーJ2の水戸ホーリーホックの熱心なファンでもあり、スポーツが個人にもたらす幸福感は常に実感しているとのこと。「試合に熱狂したり、他のファンと交流したり、家に閉じこもるだけでなく外出したり。そうした活動によって、ドーパミン、オキシトシン、セロトニンといった『幸福ホルモン』がどのぐらい増えるのかを調べたらおもしろいのでは」と提案します。
また、鈴木教授は、AIやデータサイエンスをうまく活用する上では、「これとこれと関係しているのではないか、それによってこれが起きているのではないか、という『仮説』を持つことが重要です」と語りました。
そこで、茨城ロボッツのビジョンを達成する上で、最も大切な仮説とは何かを川﨑社長に質問。すると、「僕たちが子どもの頃は、(当時住んでいた勝田から)電車に乗って水戸へ出かけるとき、今でいうと東京へ出かけるような、そういう感覚があった。水戸は憧れで、結局その気持ちがずっと根底にあって、こうやって関わり続けている。今の子どもたちにもそういう価値を感じてもらいたい。スポーツならそれができるはず」とのこと。もちろんそれは今水戸で生活したり仕事をしたりする人だけでなく、「おじいちゃんが水戸に住んでいた」というような記憶が「つなぎ」の役割を果たすこともあります。川﨑社長はそのような形でつながるコミュニティを「DNA経済圏」と呼び、鈴木教授は「それこそが関係人口」と指摘しました。
そうした憧れや誇り、「DNA経済圏」を形成するのは、まちについての物語の集積、すなわち「ナラティブ」の力であって、そうした質的なものをデータによって可視化するのは難しいかもしれません。とはいえ、まちにおける経済的なインパクトや幸福度が可視化されることで、「ナラティブ」が強まるということはあるはず。そんな仮説をもちながら、「今後、大学生たちとも具体的なデータ分析や地域実践に取り組んでみたい」――そう呼びかける川﨑社長に、鈴木教授も強くうなずく場面が印象的でした。