「リスニング?エフォート」など最新の聴覚?補聴研究を伝える動画コンテンツ配信開始
「きこえのミライ シーズン2」教?田原准教授らデンマークで収録
オーティコン補聴器、茨城大学教育学部障害児生理学研究室および岡山大学病院 聴覚支援センターは共同で、昨年11月から配信を開始したオンデマンド動画配信プログラム「きこえのミライ」の第2弾、「きこえのミライ シーズン2」を本日8月6日より配信を開始しました。
本プログラムでナビゲーターと演者を務める、茨城大学 教育学部 障害児生理学研究室の田原敬准教授は昨年7月までデンマーク工科大学の客員研究員を1年間務め、主に聴覚障害児への教育という視座から、「リスニング?エフォート」や聴覚認知、教育オーディオロジーに関する研究に従事しています。岡山大学病院 聴覚支援センター 片岡祐子准教授も、リスニング?エフォートの研究に関わりながら、耳鼻咽喉科専門医として、聴覚医学、難聴を持つ子どもから高齢者までの福祉?教育を専門分野とし、専門家や一般の方への聴覚ケアの啓発にも取り組んでいます。
「デンマークでの研究経験や知見を日本にも広く伝えて、聴覚ケア領域を盛り上げたい」という田原准教授と片岡准教授の思いがきっかけとなり、リスニング?エフォート最新研究を行っているデンマークのエリクスホルム研究センター、オーティコン補聴器、インターアコースティクス研究ユニットの研究者たちもそれに賛同し、シーズン2動画制作の企画?制作に至りました。シーズン1に続き「リスニング?エフォート、という考え方を軸にわかりやすく研究内容を伝える」というテーマを維持しながら、最新聴覚研究とその活用、今後の補聴テクノロジーについて研究者にインタビューを行い、研究センター内の実験室の様子も映像で紹介するなど、最先端の聴覚研究が行われている現地から、様々な最新トピックをより深掘りする内容になっています。また、国内での最新研究と取り組みについても最終パートでご紹介しています。
「リスニング?エフォート」と「リスニング?ファティーグ」の重要性
リスニング?エフォートとは、聞き取りが難しい状況において、注意?集中を高めたり、聞き取れなかった内容を推測したり、聴覚以外の認知機能も総動員して話を理解するような行為を意味します。聴覚障害のある方の場合、たとえ聞き取りの成績が良かったとしても、リスニング?エフォートが高い状態にあり、聞き取りだけではなく、様々な活動への影響が生じていると言われています。
【参考】/news/2023/11/13012149.html
リスニング?エフォートには様々な要因が影響を及ぼしますが、大きく分けると①個人の要因、②環境の要因、③モチベーションに整理されます(図1参照)。この中でも注目したいのが、本人が「聞きたい」と思う話に対して、つまりモチベーションが高い状態ではエフォートも上がるということです。これはポジティブな意味でのエフォートと捉えることができます。リスニング?エフォートは必ずしも悪いものではなく、個人あるいは環境からの聞き取りづらさに伴って生じるネガティブな側面と、聞きたいというモチベーションに伴って生じるポジティブな側面があわさった考えであり、本人が置かれた状況や文脈を踏まえた評価?支援を提供していく必要があります。
さらに、リスニング?エフォートと関連する考え方として、リスニング?ファティーグがあります。これはがんばって聞き取りを続けた結果生じる疲労感のことです。同様に、聞き取りに割けるエネルギーがあとどの程度残っているのか、ということを表す「リスニング?バッテリー」という考え方もあります。ポジティブな側面にせよ、ネガティブな側面にせよ、リスニング?エフォートが積み重なるとファティーグは上昇しバッテリーは減るという点も理解しておく必要があります(図2)。このような状況では、話を聞きたいと思ってもそれに割くエネルギーが残っておらず、頭が回らずに聞き取ることを諦めてしまう可能性もあるためです。適切なタイミングでエフォートを高め、聞きたい話を聞き取ることができるよう、ペース配分を考えていくことも重要になります。本シリーズで扱っているような最新の補聴技術に加え、雑音下聴取能力を推定する新たな聴覚検査ACT(アクト)の結果も積極的に活用することで、「余分なリスニング?エフォート」を減らしつつ、本人の意志やモチベーションに応じて、エフォートをコントロールできるように環境を整えていくことが求められています。
茨城大学 教育学部 田原敬准教授のコメント
聴覚補償技術の進歩に伴い、より主体的で自身の意志に基づいた聴覚活用の可能性が高まってきていることを感じています。オージオグラムなど聞こえの成績のみにとらわれず、本シリーズで紹介しているような新たな考え方にも目も向けながら、 より明るい「きこえのミライ」について皆様と共に考えていければと思います。今回の収録は、デンマーク在外中に共に学んだ研究仲間の成果が様々な形で、製品や聴覚テクノロジーに反映されていることを知る機会にもなり、個人的にも思い入れの強いインタビューとなりました。私自身がインタビュー中に感じたワクワク感を、視聴者の皆様にも感じていただければ幸いです。