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Mg2SiのSWIRイメージセンサーで実現する〈安価な〉情報革命

 茨城大学大学院理工学研究科/応用理工学野の鵜殿治彦教授らの共同研究グループは、低コストかつ高性能な短波赤外域(SWIR)イメージセンサーの実現を目指し、マグネシウムシリサイド(Mg2Si)基板を用いたフォトダイオード(PD)リニアアレイの開発に成功しました。Mg2Siは安価で環境負荷の低い半導体材料であり、これまでにデータ駆動科学を用いた結晶育成条件の適正化で直径50mmの高品質なMg2Si単結晶の育成に成功しています。本研究では、Mg2Si基板上に熱拡散とフォトリソグラフィープロセスを適用してPDリニアアレイ構造を試作し、I‐V測定および分光感度測定により、SWIR域における高感度が確認されました。これにより、資源が豊富なMg2Siで低コストなSWIRイメージセンサーを実現できる可能性が示されました。
 この成果は、2024年第85回応用物理学会秋季学術講演会の注目講演になりました。

>>くわしくは公益社団法人応用物理学会のホームページをご覧ください

Mg2Siで実現するSWIRイメージセンサー

 マグネシウムシリサイド(Mg2Si)は、短波赤外域(SWIR、波長0.92.5?m)に感度を持つ半導体材料であり、その特性からSWIRイメージセンサーや受光センサーへの応用が期待されています。Mg2Siは、シリコンとマグネシウムという地殻中に豊富に存在する資源から構成されており、安価かつ大量生産が可能で、環境負荷も低い材料です(1)。茨城大学大学院理工学研究科(工学野)の鵜殿治彦教授を中心とする研究グループは、データ駆動科学を用いた結晶成長技術の最適化により、直径50mmの高品質なMg2Si単結晶の育成に成功しています。

lecture-09-1.pngのサムネイル画像図1 マグネシウムシリサイド(Mg2Si

 「私たちは、SWIRイメージセンサーを劇的に安価にし、普及させることで、社会的な変革をもたらしたいと考えています。現行のSWIRイメージセンサーは、比較的安価なものでも市場価格で約40万円程度と非常に高価です。これを数千円レベルまで下げることができれば、IoT機器などを通じた、幅広い分野で赤外光の利用が可能になると考えています」と、鵜殿教授は語ります。

 近年、IoT技術の普及とともに、さまざまなセンサーを搭載した機器が社会に浸透しつつあります。この流れの中で、SWIRイメージセンサーの役割はますます重要性を増しています。鵜殿教授らはこのたび、低コストかつ高性能なSWIRイメージセンサーの実現を目指し、Mg2Siを基板とするフォトダイオード(PD)リニアアレイの開発に取り組みました。「SWIR域の情報を活用することで、作物の内部の水分量など、これまで知ることのできなかった情報や、新たな視点を得ることが可能になります。暗闇での監視や、工業製品の非破壊検査、農作物の遠隔モニタリングなど、さまざまな分野での応用が考えられます」と鵜殿教授は期待を話します。

Mg2SiによるPDリニアアレイ

 鵜殿教授らの研究グループは、Mg2SiPDリニアアレイ構造を作製するために、Mg2Si基板を用いた開発を行いました。まず、垂直ブリッジマン法を用いてグラファイトるつぼ内でnMg2Si単結晶(n = 1×1015 1×1016 cm?3)を成長させ、結晶を切断加工することでMg2Si基板を作製しました。

 次に、基板の裏面にはアルミニウム(Al)を熱拡散し、n型側のオーミック電極を形成しました。基板表面にはプラズマCVD装置を用いてSiO2層を成膜し、フォトリソグラフィーによってパターニングを施しました。銀(Ag)を電子ビーム蒸着またはスパッタ法で堆積し、熱拡散によってpn接合を形成しました。さらに、リフトオフプロセスとCF4エッチングガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)を施し、p層上にAu/Niリング電極を形成しました(2)。これらの工程を経て、画素サイズが80?m角、ピッチ200?m8画素/列のPDリニアアレイが試作されました。

lecture-09-2.png図2 Mg2SiPDリニアアレイ作製プロセス

 「開発プロセスでは、Mg2Si基板に既存の汎用プロセスを適用し、簡易な熱拡散法を用いることで、高いコストパフォーマンスを実現しました。これにより、従来のSWIRセンサーに比べて格段に安価に製造できる可能性が証明できたと思います」と鵜殿教授は説明します。

一桁低い性能,しかしコストは100分の1以下

 性能評価として個々のPDI‐V 測定および分光感度測定を行ったところ、単一PDと同様の暗電流密度と整流性、分光感度特性が得られました。成果として特筆すべきは、これらの優れた特性を実現するために用いられたプロセスが、低コストで大量生産に向いているという点になります。特に、Mg2Si基板上でのpn接合形成は、熱拡散というシンプルなプロセスで達成されており、大量生産する際には製造コストが大幅に削減されることが予想されます。

 また、画素数は少ないが、8画素/列のリニアアレイ構造としての均質に製造が可能なことも確認されました(3)。今後はさらなる高画素化が見込まれます。「次のステップとして、現在開発中の32画素からさらに高画素化を進め、2次元アレイへの展開を図っています。また、ダイナミックレンジに寄与する暗電流についても、2桁程度下げるための改善を進めます」と述べます。

lecture-09-3.pngのサムネイル画像図3 Mg2Siの構造と電子顕微鏡写真

 鵜殿教授は、今後の開発において裏面入射構造を採用し、性能は一桁落ちるとしても、コストを100分の1以下まで削減することを目指しています。「Mg2Si基板と受光領域が同じ材料であるため、基板を薄くするだけで簡単に裏面入射のデバイスが作れます。これにより、従来のデバイスで必要だった煩雑なプロセスを省略し、大幅なコスト削減が可能になります」と鵜殿教授は期待します。最終的には、現在のセンサー価格を大幅に下回る安価なSWIRセンサーを実現し、流通させることを目標にしています。

講演情報

85回 応用物理学会秋季学術講演会
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講演番号:17p‐B1‐6
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タイトル:短波赤外イメージセンサに向けた Mg2Si‐PD リニアアレイの試作 Fabrication of Mg2Si‐PD linear‐array for SWIR image sensor
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所属:茨城大院 理工学研究科
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発表者:今泉尚己、尾嶋海人、武井日出人、坂根駿也、鵜殿治彦

出典

公益社団法人応用物理学会「Mg2SiのSWIRイメージセンサーで実現する"安価な" 情報革命」