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「茨大の教育学部のコミュニティが大きな力に」
ひたちなか市立佐野中学校教員?西岡遼さん(2019年3月 教育学部卒)

 ひたちなか市立佐野中学校の3年生のとあるクラス。県立高校入試と卒業が刻々と近づく2月中旬、壁に貼られた卒業までのカウントダウンカレンダーが、この教室で過ごす濃密な日々の残り時間を伝えている。その1分、1秒も無駄にしたくない、そんな生徒たちの活気の中に、入試前の緊張感が入り交じる。
 賑やかなその輪の中に、担任を務める西岡遼さんもいた。テンポよく交わされる軽い言葉のやりとりから、教師と生徒の間の信頼感が伝わってくる。

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 西岡さんは2019年3月に茨城大学教育学部を卒業。初任校として赴任した佐野中学校での教員生活はまもなく丸5年を迎える。担当教科は理科だ。
 「3年生の担任として卒業生を送り出すのは、これで2回目です」と話す西岡さん。
 取材者が訪れたのは「総合的な学習の時間」のタイミングで、生徒たちはグループになって自分の未来についてノートPCを使ってまとめていた。西岡さんは教室中を歩き回り、各グループの進捗状況を確認しては、楽しそうに談笑する。その合間に高校入試の面接試験の練習にも対応していた。

 出身は千葉県の流山市。母親がかつて教員を務めており、かつての教え子が家に訪ねて来るなど、「教師」という仕事の魅力をすぐ身近に感じる環境で育った。
 また、中学生のときの担任の先生との出会いも大きい。「熱血な男性の先生で、誰ひとり残さず正面から向き合ってくれる方で、私自身もいろいろな面で助けられました」。こういう人になってみたい、という想いが西岡さんを教職へと導いた。

 茨城大学教育学部に入学して、初めの3か月ぐらいは流山の自宅から通ったが、さすがに大変なので一人暮らしに切り替えた。アカペラサークルの「Impressive Voice」に加入し、茨苑祭はもちろん、全国各地の大会のステージにも立った。飲み会も嫌いじゃない。むしろ好きな方。熱い学生生活を一緒に送った友人たちとは今でもよく会っている。

大学時代、東京スカイツリー前のステージで 右から2人目が西岡さん大学時代、東京スカイツリー前のステージで。右から2人目が西岡さん

 3年生のときは附属小学校、4年生のときはひたちなか市内の中学校で教育実習に臨んだ。中学校の実習の指導教員は、同じ教育学部理科選修を卒業した先輩。大学で学んだ理科教育の授業を実践にどう活かすか。毎日悩みながら夜遅くまで教材研究に取り組んだ。

 たとえば植物についての授業。実験で生徒たちが失敗しないよう、まずは自分がしっかりとデモンストレーションをしてみせるという指導案を作った。ところが指導教員の先生から、「失敗してもいいから子どもたちに、もっとやってもらった方がいい」という助言を受けた。子どもたちの興味関心をどう引き付けるかをまずは考え、失敗も含めて、自然に触れてもらう経験を大事にすること。「やはり大学での模擬授業とは違います。現場でしか学べないことをたくさん得ることができました」と西岡さんは振り返る。

 ゼミ選択では、所属する理科選修の担当教員のゼミではなく、当時は別の課程を担当していた小林祐紀准教授のゼミを選んだ。専門はICT教育。小林ゼミにとっても初めて課程外から迎え入れるゼミ生となった。
 「もともとパソコンが好きだったということもあり、小林先生の授業がとてもおもしろくて。今まで受けたことがないような授業実践をたくさん目の当たりにして、自分もこういう授業をやってみたいと思ったんです」。

 普段一緒にいる理科選修の仲間たちとは別のコミュニティでの学び。そして小林ゼミという選択と経験が、その後教員として迎えることとなるコロナ禍において、大いに役立つことになる。

 「コロナ前の教員1年目のときから、パソコン室を借り切り、理科の実験データをExcelに入力して規則性を導き出す、みたいなことをやっていたんです。そしたら年度末にコロナで休校になり、やがて生徒たちには1人1台のPCが渡され、オンライン配信という試みも始まって......と、状況が一気に進んでいきました」。
 ICTに対する知識に長けていることから、2年目に情報教育主任を担当することになった。ICTについては得意な教員もいれば、苦手な教員もいる。その中で主任として学校全体のオンライン配信をリードしていかなければならない。裏方のサポート役にひたすら徹してきたが、その働きぶりを見ていた管理職が、ひたちなか市のICT教育専門研究委員に西岡さんを推薦してくれた。選修の枠を飛び越えた自身の挑戦が、思いがけない自分の「強み」につながり、ひとりの社会人として関われる領域も広がった。

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 小林准教授とは今でも頻繁に連絡を取り合っている。小林准教授が主宰している、学校のICT活用やプログラミング教育をテーマとした勉強会に、県内外の教員や研究者とともに参加しているのだ。今は、紙のノートからデジタルに変わることで、子どもたちの学びがどう変容するかに関心があり、大学院などでしっかり研究してみたいとも思っている。こうした西岡さんの探究心を管理職や同僚も理解し、応援してくれているという。「良い人たちに恵まれてここまで来ました。自分ひとりでやっているだけではどうにもならなかったことが、この学校だからこそできたと思っています」。

 思えば初年度からいきなり1年生の担任を任され、最初は不安で仕方なかった。そんな自分を助けてくれたのも、現場の先輩たちだった。
 加えて、同じように各地で教員としてがんばっている同窓の友人たちとの励ましあいも力になった。「学校の内外に相談できる仲間がいるという意味で、茨大の教育学部というコミュニティの存在はやはり大きいです。先輩、後輩のつながりも強いので、たまに出張や研修で会って安心できる」と西岡さんは語る。

 そうして初めて担任を受け持った学年の生徒たちは、その後2年、3年と、西岡さんも一緒に持ち上がる形で、卒業まで見送った。当然、思い入れは強い。

 「最初はやんちゃだった生徒が、最後は『ありがとう』と言って卒業してくれる。今でも学校に遊びに来てくれて、高校での様子などを話してくれたり、フットサルに誘ってくれたりします」と西岡さん。

 教師となって日々がんばっているということを、教職に自分を導いてくれた中学時代の恩師には、まだ直接は伝えられていない。あの当時教わったことが、教師になった今、今度は次の世代へと教え、受け継いでいくものとして、西岡さんの中に根を張り始めている。

 「今まで試行錯誤の連続で、正直失敗も多かったけれど、自分が真剣に向き合えば、子どもたちにはちゃんと響いてくれる、わかってくれるという手応えを感じることができました」と西岡さん。
 その「手応え」は、人生で2回目に送り出すこととなる3年生の教室でも、強く感じられているに違いない。生徒たちに囲まれた西岡さんの表情がそれを物語っている。

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(取材?構成:茨城大学広報室)