県内の約70人の高校長が茨大に集結
―校長協会研修で「質保証」を通じた高大接続の展望をともに探る
9月22日(金)、茨城県内の県立?私立高等学校(中等教育学校含む)から約70人の校長先生たちが茨城大学天下足球网を訪れ、一堂に会しました。この日、図書館ライブラリーホールを会場に茨城県高等学校長協会の研修会が行われたためです。この研修会では、本学の太田寛行学長、嶌田敏行教授、さらに来年度開設の地域未来共創学環の準備室長を務める福与徳文学長特別補佐が講師を務め、「茨城大学における教育の質保証の取組みと高大接続への展望」というテーマで議論を行いました。
教育の質保証の取り組みと高大「共創」
今回の研修会は、茨城県高等学校長協会の制度調査委員会の「拡大研修会」として催されたものです。
きっかけは今年4月に発刊した書籍『現場が動きだす大学教育のマネジメントとは―茨城大学「教育の質保証」システム構築の物語』(技術評論社)を、同協会の制度調査委員長を務める茨城県立茎崎高等学校の岩﨑卓士校長が読んでくださったことでした。
「これまでの高校教員生活の中で、『今年の学年は当たり』『はずれ』といった言い方を耳にすることがあり、学校全体として教育をどう考えるかという課題に関心があった。『質保証』という概念と茨城大学の実践は、その問題意識にすごくマッチするものだった」と言う岩﨑校長の提案により、今回の研修が実現しました。
岩﨑校長からのオファーは、茨城大学にとっても願ってもないことでした。本学では「イバダイ?ビジョン2030」の中で「初等?中等教育からの『連続性のある学び』を展開する」(Action3)ことを宣言していますが、本学が進めてきたディプロマ?ポリシーをベースとした質保証の取り組みは、まさに「学び」をつなぐ触媒になるのではないかと考えているからです。昨年(2022年)7月に「高大共創」を掲げて開催した「茨城大学トップメッセージフォーラム」も、そうした視点をもって企画したものでした。
学びの実感と「連続性のある学び」
研修のトップバッターを務めたのは太田寛行学長です。
太田学長は、各高等学校で策定が進められてきた「グラデュエーション?ポリシー」について、茨城大学の「ディプロマ?ポリシー」と対比させながら、その意義や教育活動への具現化のポイントを確認していきました。
その上で茨城大学では、教育成果の可視化において、就職先や教員などが測る直接評価だけでなく、学生の主観による間接評価を重視していることを紹介し、「直接評価と間接評価には正の相関がある。『学びの実感』を確認してもらう間接評価を全教職員で共有することで、全学的な学修成果の総体は十分の向上する」と説明しました。
もともと個人の成長という視点から見れば、学びは切れ目なく続くものです。だからこそ、学修者(Learner)実施の実感をベースとした教育マネジメントの仕組みを高校や社会と共有していくことが、「連続性のある学び」を支え、またその質を向上させることにつながるといえます。
太田学長は、そうした取り組みを進めるにあたって、高等学校における「探究」(総合的な探究の時間)の活動に着目します。「入学前の『探究』の支援や、高校生の関心が高い『好きなことの追求』とSDGsなどの『未来の社会づくり』への応答など、『探究』の受け皿を大学側としてどう作れるかが課題」と語りました。
その後は、来年4月に開設される地域未来共創学環の準備室長を務める福与徳文学長特別補佐にバトンタッチ。まさに「探究」の受け皿のひとつと言えるような、分野横断型の学びやコーオプ教育といった地域未来共創学環の特徴を紹介しました。
勝田中等教育学校での実践
後半に登壇したのは、茨城大学の質保証の仕組みのデザインと実務に取り組んできた、全学教育機構の嶌田敏行教授。
嶌田教授は、茨城県立勝田中等教育学校から依頼を受け、大学でのこれまでの実践と知見を活かし、「学術顧問」として同校の教学マネジメントのサポートをしてきました。今回の研修ではその事例を紹介しながら、「生徒たちの学びの自由度を高めることを、ポリシーでどう担保できるか」という視点で話をしました。
嶌田教授はまず、「教育はチームでやるもの」として、教員たちの自律的な自己点検評価と改善を促すアプローチについて説明しました。具体的には、「データを見てもらってワイワイ議論してもらい、改善のノルマは求めない。たまに振り返ってもらって、改善した点を挙げてもらう」というもの。そのための場(FDなど)?きっかけ(定期的な予定)?コンテンツ(議論が盛り上がるデータ)が重要だと、嶌田教授は言います。
その上で、勝田中等教育学校での展開事例を紹介。同校ではもともと「3つのポリシーは作ったものの、実質化が十分とはいえない」「教員の探究学習の取り組みにやや濃淡がある」といった課題を抱えていました。そこで、グラデュエーション?ポリシーごとに生徒の成長イメージ(学習成果)をそれぞれの教員に考えてもらうワークショップを実施しました。
ワークショップを実施してもらうと、教員たちは、自身の担当教科を絡めてどのように生徒を育てていくかというモデルをしっかりと持っている、ということが見えてきます。次に、それらの視点を組み合わせてグラデュエーション?ポリシーの要素ごとに達成(評価)基準を策定し、ルーブリックを作ることを目指しました。この作業においては、他校や海外の事例も参考にしながら議論を進めていきましたが、なかなか難産だったようです。結局、約3年がかりでワークは展開されていきました。
じっくりと時間をかけて議論を進めた結果、「担当教科ごとに、ポリシーの各要素への対応可能度を話し合ってもらうことで、グラデュエーション?ポリシーと各教科がつながりを再認識いただけた」と嶌田教授。その上で、「もともとは教科でカバーしにくいところを探究でカバーするという考え方だったが、思った以上にグラデュエーション?ポリシーは教科でカバーできていた」という発見があったと紹介。こうした認識を学校全体で共有できたことは、日々の教育活動の中で無理なくポリシーを実質化し、教育の点検?改善を意識化することにつながるといえそうです。
その後の質疑応答でも印象深いやりとりがありました。
参加者の一人からは、「アントレプレナーシップや探究に類する学びついては、中学生の方がレスポンスが良いと感じる。大学生ともなると凝り固まってしまって、学びに向かう姿勢を変えるのは難しいのではないか」という質問がありました。それに対して太田学長は、「早い段階でたくさん吸収できることはあるかも知れないが、吸収することで終わるということはない。研究は答えのないところで、突っ込み、自分で実験し、答えを出していくこと。センスは人によって違うかも知れないけれど、ずっと突っ込み続けられる」と答え、「一般化するほど均一な学生はおらず、一様でないそうした学生たちそれぞれの個性を、私たちはどうやって見て、伸ばしていくかが問われている」と語りました。
最後にあいさつに立った茎崎高等学校の岩﨑校長は、講師を務めた3人を前に、「教育を継続して高めていく、同じ立場の者として今後も交流できれば」と述べ、太田学長らも深く頷いていました。
研修会後は、福利センター(大学生協)のイーティングコモンズで情報交換会も催し、茨城大学より理事?副学長?学長特別補佐や各学部長なども参加して交流を深めました。毎年多くの卒業生が茨城大学に進学しているような高等学校に限らず、卒業後の就職者が多い高等学校のみなさんとも、学校での学びと社会との接続という共通の課題意識をもって有意義な意見交換ができたことに、今回大きな意義がありました。高等学校の関係者のみなさんとは、「連続性のある学び」を高めることが地域社会の未来をつくるという視点で、今後も手を取り合っていければと願っています。
(取材?構成:茨城大学広報室)