【動画あり】地域の未来にSDGsをどう活かせるか
―茨城大&常磐大連携シンポを開催
地域の大学とSDGs
国連が定めるSDGs(持続可能な開発目標)の実現へ向けて、地域のさまざまなアクターが取り組みを進めており、地球規模の課題に関わる各分野の専門的知見の活用や学生を中心とした活動といった点で大学が果たすべき役割も大きくなっています。水戸市内にキャンパスを有している茨城大学と常磐大学の両大学は、持続可能な地域づくりのためのビジョンを示すものとしてSDGsを重視しており、教員や学生の個別の活動に留まらず、組織的な取り組みも強化しています。
こうした中、11月2日(火)、両大学の主催により、「地域の未来にSDGsをどう活かせるか―大学の役割と実践の知恵―」と題したシンポジウムを、ザ?ヒロサワ?シティ会館小ホール(水戸市)で開催しました。天下足球网感染症対策を講じた中、会場には90人以上が駆けつけたほか、YouTube LIVEで行った動画中継も多くの方にご覧いただきました。
シンポジウムの冒頭、オープニングトークを務めた本学の太田寛行学長は、自分と他者の幸せを守ることがSDGs実現のベースにあるとし、「他者を三人称ではなく二人称として(身近な存在として)思い浮かべることができれば、SDGsに近づけるのではないか」と述べて、今回のシンポジウムの役割に対して期待をこめました。
ウスビ?サコ氏の講演―"やっている"感だけではいけない、本当の意味で世界の共存をどうするか
今回、キーノートスピーチ(基調講演)の講師に迎えたのは、京都精華大学のウスビ?サコ学長です。サコ氏には、自身の知見と経験を踏まえ、日本の大学と地域社会におけるSDGsの意義についてお話をいただきました。
サコ学長はマリ共和国生まれ。国費留学生として中国?北京語言大学、南京東南大学を経て来日し、京都大学大学院工学研究科で建築学を専攻。京都精華大学人文学部教授、学部長を歴任し、2018年から同大学の学長を務めています。就任の年には「京都精華大学 ダイバーシティ宣言」を、2020年には「京都精華大学 SDGs宣言」を採択し、大学をあげてダイバーシティ、地域におけるSDGs活動を牽引しています。
講演では、自分の育った母国の家族制度、地域社会の紹介に始まり、フィールドワークを中心にした環境問題、生活空間の近代建築研究を通じて見えてきた日本の地域社会の特徴、その視点を踏まえた学生教育のありかたなどを幅広く紹介。多様性の実現に向けては、マイノリティ優遇からマジョリティの意識改革へと照準を変えていくべきではないかと指摘し、特にデジタルネイティブと呼ばれるZ世代の若者における地域とのかかわりや他者とのコミュニケーションのありかたが、SDGsの理念を活かした共存社会の実現に欠かせないことを指摘しました。
自分の足元をしっかり見つめ、身近な異文化を意識することに、気づきの機会を与えることが大学として重要と述べたサコ氏。SDGsの推進のためには、気負わず、身近なところから始めれば良いとしたうえで、「"やっている"感だけではいけない。本当の意味で世界の共存をどうするか、格差社会をどうするか」を考えてほしいと提言。「自分の変化を恐れてはいけない。ソリューション(解決)ばかりでなく、問いにたどり着くことこそが世界を救う」と力強く訴えました。
茨城大&常磐大の教員?学生の実践―My SDGs
後半は「My SDGs」と題したトークセッション。茨城大学と常磐大学の4名の教員が登壇し、それぞれの取り組みを紹介しました。
常磐大学の小関一也准教授は、「"地域"と"世界"をつなぐ大学教育の可能性:フィリピン研修におけるSDGs実践から」と題して、同大のフィリピンでの海外研修について報告。フィリピンを訪れた学生たちが現地の絹織物の商品を企画し、水戸市内のイベントで販売したフェアトレードの実践事例を紹介しました。その他、小さな子どもたちにもフェアトレードを伝える取り組みや、絵画を通じた現地と日本の子どもたちとの交流など、学生の可能性を存分に活かしながらグローバルパートナーシップを実践的に進めていく取り組みが報告されました。
続く本学の藤田昌史准教授の報告テーマは、「持続可能な社会のための水環境研究:涸沼から太平洋小島嶼まで」。茨城県の涸沼とマーシャル諸島のマジュロ環礁での現地調査について紹介しながら、人間生活が自然からさまざまな恩恵を得ていること、それを維持していくためには保全?再生が必要であることを、具体的なデータを示して説明しました。これらは、水の生態系、陸の生態系両方の保全はもちろん、気候変動対策や住み続けられるまちづくりにもつながる取り組みといえます。
常磐大学の旦まゆみ教授は「ゼミ生による地域の小学校へのSDGs教育の実践とキャリア形成」と題して、経営学科におけるSDGsに関する教育実践を紹介。学生たちはまずSDGsについて文献で理解を深め、自分たちにできることを検討。大洗海岸でゴミの収集を行う中で海洋プラスチックの問題の実態に触れるなどの体験をしました。その後、そうした経験をもとにSDGsをテーマにした「ときわこども新聞」を制作して、地域の小学校へ配るなど、その知識を地域で共有しました。
本学の後藤玲子教授からは「地域のジェンダー問題をEBPMで解決するために:大学と自治体の連携実践」と題して、2016年から水戸市の男女平等参画課や情報政策課と取り組んでいるジェンダー政策についての紹介がありました。「男女の所得や家事時間などのデータは市町村単位ではほとんどない」と後藤教授。本学と水戸市では、それらのデータ収集、分析、見える化を進め、さらには学生も参加して政策提言を実施。地域における「実証的な証拠に基づく政策形成」(EBPM : Evidence Based Policy Making)の実践例として報告しました。
SDGsは個々人の変化、行動規範の変容にかかってくるゴール
4名それぞれの報告のあとは、ウスビ?サコ氏と常磐大学の富田敬子学長が加わり、本学の蓮井誠一郎学長特別補佐(SDGs推進)の進行のもと、ディスカッションを行いました。
富田学長はかつて国連で経済社会局統計部次長などを務めていました。2015年のSDGs採択時、その広域さと野心的な取り組みについて「世の中にどれだけ訴求するのか、理解されるのか、正直、懐疑的だった」と振り返ります。しかし、実際にはその後このコンセプトが世界中に大きく広がり、受け入れられていきました。そのうえで富田学長は、「SDGsには、Local Community、Local Authority(自治体)という言葉が多く出てくる。地域での協働が必要ということ。今回、二つの大学と水戸市とでこういうシンポジウムを開けたことを本当に嬉しく思う」と述べました。
ディスカッションでは、私たちに求められる行動変容は何か、それに対して大学教育は何ができるか、といった観点で意見交換がなされました。
サコ氏が「『地域』の話、『住み続けられるまち』という課題の解決は、誰かがやってくれるわけではなくて、みなさんの手でしかなされない。だからSDGsは個々人の変化、行動規範の変容にかかってくるゴールだということを、われわれは立ち止まって自覚しなければならない」と語ると、富田学長は、「私たちが日々とっている行動が未来社会にどうつながるのか、あるいはどのような変容によって未来社会がつくられていくのかを考えることが大事。知を生み、知を育てるという役割をもつ大学の大切さを、改めて気付かされた」とディスカッションを締めくくりました。
茨城大学と常磐大学は、引き続きSDGs実現へ向けた取り組みを、地域の方々と推進していきます。みなさん一人ひとりが「パートナー」です。一緒に行動していきましょう。